社会福祉法人会計について
社会福祉法人は、特段の定めのあるものを除き、会計基準の定めるところに従い会計処理を行い、法第42条第2項に規定する書類(以下「計算書類」という)を作成しなければならず、この会計基準に定めのない事項については、一般に公正妥当と認められる会計の基準に従うものとすることとされています。
また、社会福祉法人は、この会計基準に基づき、会計処理のために必要な事項について経理規程を作成しなければなりません。
社会福祉法人会計基準 とは?
社会福祉法人会計基準の基本的な考え方
- 社会福祉法人単位での経営を目指し、法人全体の経営状況を把握する。
- 損益計算の考え方を採用することで、法人の経営の効率性を簡潔明瞭に会計に反映させる。
- 法人として高い公益性を踏まえた会計内容である。
- 日常の会計取引を忠実に記録し、法人の経営状況を適切に表示するための基本事項を定めたものであり、各法人は会計基準を基に自主的に経理規定を設けることとする。
会計単位と経理区分
社会福祉法人は一般に社会福祉事業を行うものをいいますが、それに付随して他事業も行なうことができます。
その場合、会計書類作成にあたり会計の区分が必要となります。
通常、一般会計は法人本部及び社会福祉事業(定款に記載した社会福祉事業毎に区分)に区分します。
公益事業会計及び収益事業会計がある場合はそれぞれ独立した特別会計を設けなければなりません。
公益事業…会計基準に準じて行なうことができます。
収益事業…会計基準は適用せず、一般に公正妥当な企業会計に従って行ないます。
また、社会福祉法人の事業活動の内容を明らかにするため、法人本部及び定款に記載した社会福祉事業ごとの区分(「経理区分」という)を設け、その経理区分ごとに収支計算書を作成します。
経理区分により、事業内容を明らかにできない場合は、さらに経理区分を細分し、収支計算書を作成することができます。
会計の原則
社会福祉法人は、次に掲げる原則によって会計処理を行い、計算書類を作成しなければなりません。
- 財政及び活動の状況について真実な内容を表示すること。
- すべての取引について複式簿記の原則によって正確な会計帳簿を作成すること。
- 財政及び活動の状況を正確に判断することができるように必要な会計事実を明瞭に表示すること。
- 採用する会計処理の原則及び手続並びに計算書類の表示方法については、毎会計年度継続して適用し、みだりにこれを変更しないこと。
減価償却
会計基準の制定により減価償却制度が新たに導入されました。
従来の経理規定準則では、減価償却を行っていなかったため、購入した減価償却資産が、古くなり価値の低くなったものが、購入時の価額のまま貸借対照表に表示されていましたが、社会福祉法人会計基準では価値の減少を考慮した価額が貸借対照表に表示されるようになりました。
減価償却の範囲
固定資産のうち、時の経過又は使用等によりその価値が減少するものをいいます。
耐用年数が1年以上、かつ、1個もしくは1組の価額が10万円以上の資産をいいます。
償却方法
原則として定額法としますが、これによりがたい場合は定率法を採用できます。
耐用年数
減価償却を行う場合の耐用年数は、当該減価償却資産の種類、構造、用途及び細目毎に、適正に見積もらなければなりません。
取得価額と残存価額
減価償却資産の評価額は取得価額とし、残存価額は原則として取得価額の1割とします。
減価償却と国庫補助金等特別積立金取り崩しの関係について
工事中
期間平準を測るため、指導指針を採用するのが望ましいです。
就労支援会計
平成18年10月1日からの障害者自立支援法の施行に伴い、障害福祉サービス事業として就労移行支援事業、就労継続支援A型及び就労継続支援B型の事業が創設されました。
これらの事業における生産活動においては、従来の授産施設における授産活動と同様、事業収入からその事業に必要な経費を控除した金額を工賃として支払わなければなりません。
そのため、厚生労働省から公表された「就労支援の事業の会計処理の基準」に基づき、就労支援事業特有の会計処理が求められてきます。
就労支援事業の会計処理基準
①会計処理基準とは?
就労支援事業を実地する全ての法人が適用する会計処理の取扱いを明示したもの。
②目的は?
・就労支援事業(就労移行支援、就労継続支援A型及び就労継続支援B型)の創設
・就労支援事業の運営主体の緩和
平成18年10月1日からの障害者自立支援法の本格施行に伴い、就労移行支援、就労継続支援A型及び就労継続支援B型が創設されました。
そのため、新たな事業体系にあった会計基準が必要となりました。
さらに、就労支援事業が第2種社会福祉事業として位置づけられ、その結果として就労支援事業の運営主体が緩和されました。
そのため、社会福祉法人以外の法人にも適用可能な会計基準が必要となりました。
・正確な工賃計算の必要性(工賃倍増計画等に係る工賃支払実績の公表)と原価管理の重要性
・収益・費用の正確な把握と利用者への明確な財務情報の提供
就労支援事業を行う事業所は、授産施設と同様、就労支援事業活動により得た収入から必要な経費を控除した金額を工賃として利用者へ支払うこととされています。
そのため、適正な利用者工賃の算出ができるよう、製品製造過程等における適切な製造原価等の把握が必要となってきます。
さらに、障害者自立支援法の施行により、指定基準における工賃支払い関係規定の整備、工賃倍増計画等に係る工賃の支払い実績の公表、就労継続支援B型における目標工賃達成加算の創設など、工賃の算出に当っての原価管理の重要性が増大しています。
また、「日払い方式」や「定率の利用者負担」の導入に伴い、各事業者等も、就労支援事業にかかる収益費用の的確な把握と、利用者への明確な財務情報の提供を行うことが必要となっています。
このような状況から、法人の種別に関係なく、就労支援事業を実施する全ての法人が適用する会計処理の取扱いを明示するため新たに就労支援事業会計処理基準が創設されました。
適用の範囲
下記事業を実地する事業所(多機能型事業所を含む)は就労支援事業会計処理基準を適用しなければなりません。
- 就労移行支援事業
- 就労継続支援A型事業(雇用契約を結ぶ)
- 指定就労継続支援B型事業(雇用契約を結ばない)
- 生活介護事業(生産活動を実地している場合には、事業者の判断により適用するかどうかは任意による。)
※平成18年10月1日以前より実地されている従前の授産事業を施設等を運営する法人は、就労支援事業会計処理基準による会計処理が実務上、困難と判断される場合は、経過措置として平成24年3月31日まで従来から採用している会計基準によることができます。
適用の時期
①平成18年10月以降、新たに就労支援事業を始める法人
②平成18年10月以降、新たな事業体系に移行する法人
既に授産施設等を運営している法人であって、平成18年10月1日以降、新たな事業体系へ移行する法人については、事業年度の中途ではなく平成19年4月1日以降に新たに開始する事業年度から就労支援事業会計処理基準を適用することとなります。
なお、精神障害者社会復帰施設は、新たに就労支援事業を開始する法人と同様、新たな事業体系に移行と同時に就労支援事業会計処理基準を適用することとなります。
③経過措置により新たな事業体系に移行しない法人
既に授産施設等を運営している法人であって、平成18年10月1日以降においても、法附則第41条、第48条及び第58条の規定する経過措置により新たな事業体系へ移行しない法人についても、平成19年4月1日以降に新たに開始する事業年度から就労支援事業会計処理基準を適用することとしますが、これにより難い場合には、経過措置期間中は、従前の会計基準を採用することができます。
授産施設会計基準と就労支援事業会計処理基準の違い
①会計の基本概念
<授産> 授産施設特有の会計処理
<就労> 就労支援事業特有の会計処理
いずれも、製品製造等により得られた収入から必要経費を控除した金額を工賃として利用者に支払うという考え方で変わりはありません。
②適用範囲
<授産> 授産施設を運営する社会福祉法人
<就労> 就労支援事業を実地するすべての法人
③計算書類
<共通> 資金収支計算書、資金収支内訳表、事業活動収支計算書、事業活動収支内訳表、貸借対照表、財産目録
上記計算書類に加え、
<授産> 授産事業支出明細表
<就労> 就労支援事業別事業活動収支内訳表、就労支援事業製造原価明細表、販売費及び一般管理費明細表、貸借
対照表内訳表(作成しない場合はその他の積立金明細表及びその他積立預金明細表を作成しなければならない)
従来の「授産事業支出明細表」は廃止され、「就労支援事業製造原価明細表」及び「販売費及び一般管理費明細表」が創設されました。
「授産事業支出明細表」は資金収支計算ベースであったのに対し、「就労支援事業製造原価明細表」及び「販売費及び一般管理費明細表」は事業活動収支(損益)計算ベースであることに注意が必要です。
「貸借対照表内訳表」の作成は任意であるため、法人の判断で作成しないこととした場合には作成する必要はありません。
ただし、作成しない場合は「その他の積立金明細表」及び「その他積立預金明細表」を作成しなければなりません。
「貸借対照表内訳表」を作成する場合には、就労支援事業とそれ以外の事業とに分け、さらに就労支援事業は各事業ごとにわけ作成する必要があります。
「就労支援事業別事業活動収支内訳表」、「就労支援事業製造原価明細表」、「販売費及び一般管理費明細表」は年度単位で作成すれば足ります。
ただし、正確な原価管理や在庫管理、工賃計算等経営管理の観点からは、毎月作成することが望ましいと思われます。
④会計単位と経理区分
<授産> 授産施設単独の会計単位を設ける。授産施設毎の経理区分
<就労> 就労支援事業を1つの会計単位。通常の事業所は法人本部と就労支援事業の2つの経理区分。
多機能型事業所は法人本部及び各指定事業所毎に経理区分並びに各就労支援事業毎に事業区分。
⑤積立金
<授産> 各施設の判断で理事会の議決に基づき任意に積立が可能、科目も制限はない。
<就労> 工賃変動積立金、設備等整備積立金のみ、上限額設定有り。
積立金について
就労支援事業については、授産施設同様、就労支援事業収入から就労支援事業に必要な経費を控除した額に相当する金額を工賃として支払わなければなりません。
原則として剰余金は発生せず、事業活動収支計算書における「就労支援事業活動収支差額」は生じないものとなりますが、将来にわたり安定的に工賃を支給するため又は安定的かつ円滑に就労支援事業を継続するため、次のような特定の目的の支出に備えるため、会計年度終了時に開催される決算承認理事会等の議決に基づき事業活動収支計算書の当期末繰越活動収支差額から一定の金額を次の積立金として会計年度の決算日において計上することができます。
また、積立金を計上する場合には、同額の積立預金を計上することで、その存在を明らかにしなければなりません。
なお、次の積立金は、当該年度の利用者賃金及び利用者工賃の支払額が、前年度の利用者賃金及び利用者工賃の支払実績額を下回らない場合に限り、計上できるものとします。
①工賃変動積立金
毎会計年度、利用者の工賃水準を一定に保障するため、将来、工賃水準が一定の額を下回った工賃の補填に備え、次に掲げる各事業年度における積立額及び積立額の上限額の範囲内において、「工賃変動積立金」を計上できます。
各事業年度における積立額 : 過去3年間の平均工賃の10%以内
積立額の上限額 : 積立時と取崩時では、利用者が変わっている可能性が高いため、過去3年間の平均工賃の50%以内
ただし、過去3年間の平均工賃は、工賃が補填されていれば補填後の金額で算出することとなります。
なお、保障すべき一定の工賃水準とは、過去3年間の最低工賃(天災等により工賃が大幅に減少した年度を除く。)とし、これを下回った年度については、理事会の議決に基づき工賃変動積立金及び工賃変動積立預金を取り崩して工賃を補填し、補填された工賃を利用者に支給するものとします。
②設備等整備積立金
就労支援事業を安定的かつ円滑に継続するため、就労支援事業に要する設備等の更新、又は新たな業種への展開を行うための設備等の導入のための資金需要に対応するため、次に掲げる各事業年度における積立額及び積立額の上限額の範囲内において、設備等整備積立金を計上できるものとします。
各事業年度における積立額 : 就労支援事業収入の10%以内
積立額の上限額 : 事業開始時において自己資金1/4と国庫補助3/4によって設備等を取得しており、自己資金分については減価償却により内部留保が存在するものの、国庫補助相当分は何ら手当が無いため、就労支援事業資産の取得価額の75%以内
なお、設備等整備積立金の積み立てにあっては、施設の大規模改修への国庫補助、高齢・障害者雇用支援機構の助成金に留意し、設備等整備積立金により就労支援事業に要する設備等の更新や新たな事業業種展開を行うための設備等を導入した場合には、対応する積立金及び積立預金を取り崩すものとします。
積立金の流用及び繰替使用について
積立金は、上記のとおり、一定の工賃水準の保障、就労支援事業の安定的かつ円滑な継続という特定の目的のために、一定の条件の下に認められるものであることから、その他の目的のための支出への流用(積立金の流用とは、積立金の取り崩しではなく、積立金に対応して設定した積立預金の取崩しをいう。)は原則として認められません。
しかし、今後、就労支援事業に伴う利用料収入の受取時期が、請求及びその審査等に一定の時間を要し、事業の実施月から見て2ヶ月以上遅延する場合が想定されることから、このような場合に限り、上記の積立金に対応する資金の一部を一時繰替使用することもできます。
ただし、繰替えて使用した資金は、利用料収入により必ず補填し、積立金の目的の達成に支障を来さないように留意しなければなりません。
棚卸資産
<授産>
当期材料費=当期材料仕入高
当期製造原価=材料仕入高+労務費+外注加工費+経費
当期販売原価=授産事業支出
<就労>
当期材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高
当期就労支援事業製造原価=期首仕掛品棚卸高+当期就労支援事業製造総費用-期末仕掛品棚卸高
当期就労支援事業販売原価=期首製品棚卸高+当期就労支援事業製造原価-期末製品棚卸高
※当期就労支援事業製造総費用とは、製造原価に集計された材料費、労務費、外注加工費、経費の発生額の合計
授産施設会計基準では、材料、仕掛品、製品の期首と期末の棚卸高の表示方法は、棚卸資産増減額の科目で表示され、期首棚卸高から期末棚卸高を控除した純額を計上していました。
それにより製造原価の算出方法についても上記のような変則的な方法とされ、当期材料費、当期製造原価、当期販売原価の適正額を算出する計算システムとしては曖昧さを内包していました。
そこで就労支援事業会計処理基準では、棚卸資産について、材料、仕掛品、製品ごとにそれぞれ分離計上し、製造原価の算出方法を上記のように改めました。
これにより、当期材料費、当期製造原価、当期販売原価の適正額を算出することが可能となりました。
内部外注加工費
就労支援事業を複数実施している法人において、他の経理区分である他の事業所等、他の事業区分である他の就労支援事業へ外注加工を依頼した場合に、これを単なる経費として処理するのではなく、法人内部といえども加工の発注・受注として処理することとなっています。
これにより、より正確な発注・受注量及び業務量を把握することができ、正確な製造原価の管理等を行うことが出来ます。
なお内部外注加工費については、就労支援事業製造原価明細表上、うち書き表示を行わなければならないことに留意が必要です。
利用者賃金と利用者工賃の違い
利用者賃金:雇用契約を締結した
利用者工賃:雇用契約を締結しない
就労継続支援A型は雇用契約を締結することとされており、雇用契約を締結した利用者には「賃金」を支払うこととされています。利用者賃金は「生産活動にかかる事業に必要な経費」に含まれることとなります。
一方、雇用契約を締結しない利用者には「工賃」を支払うこととされています。
工賃は、「生産活動に係る事業の収入から生産活動にかかる事業に必要な経費を控除した額に相当する金額」を支払うこととされています。
以上のように、利用者に対する賃金と工賃には明確な違いが存在し、それぞれ「利用者賃金」、「利用者工賃」として経費科目が設けてあるため、両者を混同しないよう注意が必要です。
社会福祉法人おける非課税
法人税の非課税
社会福祉法人は、公益を目的として設立され、その目的のために活動する法人税法上の「公益法人」に該当するため、原則として非課税とされております。
ただし、収益事業を行う場合は、そこから生じた所得は課税対象となります。
また、都道府県税事務所、及び市町村役所に住民税均等割の非課税の届出書と申告書を提出することにより都道府県民税及び、市町村民税の住民税均等割も免税されます。
預貯金及び有価証券の利子に係る源泉所得税と都道府県民税利子割の非課税
該当する金融機関等に、一定の手続を行うことで免除を受けることができます。
固定資産税の非課税
社会福祉事業に供する固定資産については非課税となります。原則として、資産の所在する各市区町村に非課税申告書の届出が必要です。
印紙税の非課税
社会福祉法人が作成する受取証は営業に関しない受取証とされ、非課税文書となり、印紙税は課されません。
収益事業に関して作成した受取証や業者間との契約書なども非課税となりますが、工事等の請負契約書については課税となりますのでご注意下さい。
その他
個人が、社会福祉法人に不動産など財産を寄付した場合、相続財産を寄付した場合所得税や相続税の特例があります。
また、個人や法人が社会福祉法人に寄付した場合の寄付金控除や、福祉車両における自動車税の免税などあらゆる面で税制上、優遇されているのが特徴です。
社会福祉法人の書類の作成と提出
会計基準第6条で定められた、社会福祉法人が作成しなければならないならない計算書類は下記のとおりとなります。
- 資金収支計算書及び資金収支内訳表
- 事業活動収支計算書及び事業活動収支内訳表
- 貸借対照表
- 財産目録
資金収支計算書
支払資金の動きを記載し、収入と支出を明らかにします。
経常活動による収支、施設整備等による収支、財務活動による収支の3つに区分。